大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成11年(行ケ)256号 判決 2000年11月07日

原告

メサッドエレクトロニクスインコーポレイテッド

代表者

訴訟代理人弁護士

加藤義明

鹿能直子

同弁理士

被告

特許庁長官C

指定代理人

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  原告

特許庁が平成9年審判第2626号事件について平成11年2月26日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文1、2項と同旨

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、1990年10月4日にアメリカ合衆国においてした出願に基づく優先権を主張して、発明の名称を「再利用可能なロック手段を有する時計バネ型インターコネクター」とする発明(以下「本願発明」という。)につき平成3年9月26日に特許出願(特願平3-247235号)をしたところ、平成8年11月6日付けで拒絶査定を受けたので、平成9年2月24日に拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は、この請求を平成9年審判第2626号事件として審理した結果、平成11年2月26日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本を平成11年4月12日原告に送達した。なお、出訴期間として90日が付加された。

2  特許請求の範囲請求項1(以下、同項記載の発明を「本願第1発明」という。別紙図面1参照)第一開口部を有するハウジング、第二開口部を有するハブ、第一端部と第二端部を有するコイル状伝導手段からなり、前記ハブは前記ハウジングの前記第一開口部に回転可能に連結され、前記コイル状伝導手段は前記ハウジングと前記ハブの結合によって規定される放射状の空間に配置され、前記コイル状伝導手段の第一端部は前記ハウジングに一体に設けられた第一コネクターに連結されると共に、前記コイル状伝導手段の第二端部は前記ハブに一体に設けられた第二コネクターに連結されている時計バネ型インターコネクターにおいて、前記ハブに一体に設けられた一つ以上のスプリング付勢ロック装置は押し下げられたアンロック位置と押し下げられていないロック位置を有していて、それぞれのスプリング付勢ロック装置は圧縮コイルバネとロック組立部材とからなり、前記圧縮コイルバネは前記ハブと前記ロック組立部材を連結すると共に、前記ロック組立部材を押し下げられていない位置に移動するように押圧し、前記ロック組立部材は前記ハウジングに形成された一つ以上の凹部に相応する凸状の翼状部材を有することを特徴とする時計バネ型インターコネクター。

3  審決の理由

別紙審決書の理由の写しのとおり、本願第1発明は、実願昭63-80572号(実開平2-3688号)の願書に添付したマイクロフィルム(以下「引用例」という。別紙図面2参照)記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項に該当すると認定判断した。

第3原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由2頁2行~3頁12行は認める。同3頁13行~5頁12行は、引用例に「それぞれのスプリング付勢ロック装置はスプリング13とストッパ部材12とからなり、スプリング13は可動体1とストッパ部材12を連結する」(4頁14行~16行)との記載があることを争い、その余は認める。同5頁13行~7頁11行は、本願第1発明と引用例記載の発明とが、「それぞれのスプリング付勢ロック装置は圧縮コイルバネとロック組立部材とからなり、前記圧縮コイルバネは前記ハブと前記ロック組立部材を連結する」(6頁17行~20行)点で一致することを争い、その余は認める。同7頁12行~8頁16行を認める。同8頁17行~9頁6行は争う。

審決は、一致点「それぞれのスプリング付勢ロック装置は圧縮コイルバネとロック組立部材とからなり、前記圧縮コイルバネは前記ハブと前記ロック組立部材を連結する」を誤認し(取消事由1)、本願第1発明の奏する顕著な作用効果を看過した(取消事由2)ものであって、これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、違法として取り消されるべきである。

1  取消事由1(一致点「それぞれのスプリング付勢ロック装置は圧縮コイルバネとロック組立部材とからなり、前記圧縮コイルバネは前記ハブと前記ロック組立部材を連結する」の誤認)

審決は、引用例に、「それぞれのスプリング付勢ロック装置はスプリング13とストッパ部材12とからなり、スプリング13は可動体1とストッパ部材12を連結する」(4頁14行~16行)という構成が記載されていると認定し、これを前提として、本願第1発明と引用例記載の発明とが、「それぞれのスプリング付勢ロック装置は圧縮コイルバネとロック組立部材とからなり、前記圧縮コイルバネは前記ハブと前記ロック組立部材を連結する」(6頁17行~20行)点で一致していると認定したが、誤りである。

(1)  引用例記載の発明の支持板11、スプリング13及び可動体1の関係について

ア 引用例記載の発明において、本願第1発明のスプリング付勢ロック装置に相当する構成は、ストッパ部材12とスプリング13と支持板11の3つの部品である。このスプリング13は、ストッパ部材12と、可動体1に複数の連結ピンによって固着された支持板11との間に、単に圧縮されて配置されているだけであるから、可動体1と接触していない。可動体1と接触さえしていないスプリング13によって、ストッパ部材12と可動体1を連結させることはそもそも構造的に不可能である。

イ 被告は、①引用例記載の発明の支持板11は、可動体1の一部を形成する部材である、②本願第1発明のハブには、支持板を固着して形成する態様のものも含まれる、と主張する。

しかし、引用例記載の発明の支持板11は、単にスプリング13を支持する目的で可動体1に固着されているのであるから、「スプリング付勢ロック装置」を構成するものである。このスプリング付勢ロック装置は、スプリング13がストッパ部材12を可動体1に向けて押圧する構成になっているので、構造上必然的に可動体1とは別部材の支持板11が必要であり、組立の最終段階で、この支持板11が可動体1に固着されることによって、スプリング付勢ロック装置が完成するものと考えられる。つまり、支持板11は、可動体1にスプリング付勢ロック装置を設けるために、可動体1に付加的に固着すべき部材であって、可動体1に固着されているという理由から仮に支持板11を可動体1の一部とみなしたとしても、この支持板11には、「スプリング付勢ロック装置」の構成要素のほかには、可動体1の一部としての存在意義は全く見当たらないのである。

本願第1発明のスプリング付勢ロック装置は、圧縮コイルバネとロック組立部材のみからなっており、圧縮コイルバネがロック組立部材をハブに結合することで、スプリング付勢ロック装置が規定されて、スプリング付勢ロック装置が完成している。したがって、本願第1発明のハブが、引用例記載の発明の可動体のように、スプリング付勢ロック装置の構成要素としての支持板を固着して形成する態様のものを包含しないことは明らかである。

(2)  本願第1発明の「連結する」について

ア 「連結する」という用語は「結び合わせる」というのが本来の意味である。本願第1発明の特許請求の範囲においても、もちろん、この本来の意味で使用されている。

イ 引用例記載の発明では、スプリング13は、ストッパ部材12と支持板11との間に圧縮されて配置されているだけであって、ストッパ部材12と支持板11を連結する(結び合わせる)ものではないと解するのが、技術的に最も合理的である。

ウ 被告は、「連結」という用語を、「配置」等の意味を含むと解釈する。

確かに、本願明細書の発明の詳細な説明の欄には、実施例の構成に関して、「圧縮コイルバネ60の第二の端部は、スプリング付勢ロック装置50のロック組立部材66に形成された穴62内に配置されている。」(【0014】5行~6行)との記載がある。しかし、「連結する」という用語がその本来の字義にしたがって「結び合わせる」という意味で使用されていることは明白であるから、実施例について前記のような記載があるからといって、本願第1発明における「連結する」という用語を、あえて位置関係のみを示す意味に解釈すべきではない。実施例は本願発明の構成を前提としているのであるから、この実施例についての前記【0014】の記載は、「前記圧縮コイルバネは前記ハブと前記ロック組立部材を連結する」という構成を具体的に実現する際に、圧縮コイルバネ60の第二の端部とロック組立部材66の穴62との「連結」を目的とした位置関係を説明したものであると理解すべきである。

また、本願明細書の発明の詳細な説明の欄において、「それぞれのスプリング付勢ロック装置50は圧縮コイルバネ60とロック組立部材66からなる。それぞれのスプリング付勢ロック装置50はハブ26に組み込まれており、圧縮コイルバネ60の第一の端部によってハブ26に取り付けられている。圧縮コイルバネ60の第二の端部は、スプリング付勢ロック装置50のロック組立部材66に形成された穴62内に配置されている。」(【0014】2行~6行)という記載と「スプリング付勢ロック装置は圧縮コイルバネとロック組立部材を含んでいる。圧縮コイルバネはロック組立部材をハブと結合し、これによりスプリング付勢ロック装置を規定している。好ましくは、ロック組立部材をハブと結合するために、圧縮コイルバネの第一の端部はハブに取り付けられ、一方、圧縮コイルバネの第二の端部は、ロック組立部材に形成された穴に連結されている。」(【0026】1行~5行)という記載とが部分的に類似しているからといって、後者の記載「穴に連結されている」の意味を、対応する前者の記載「穴62内に配置されている」を根拠に、「連結」を無視して単なる位置関係の意味に解釈することは、極端な論理の飛躍であって、許されるべきものではない。

エ 被告は、本願第1発明において圧縮コイルバネが他部材を「連結」することによる技術的意義は、この圧縮コイルバネが「前記ロック組立部材を押し下げられていない位置に移動するように押圧」し得る状態を保持するところにあると主張する。

しかし、本願第1発明において、圧縮コイルバネがハブとロック組立部材を連結することの技術的意義は、単に被告主張に係る作用に関係するだけでなく、2つの部品からなる簡単な構成のスプリング付勢ロック装置の容易な組立を可能にするという構成・組立上の効果にも関与している。

これに対して、引用例記載の発明では、本願第1発明のスプリング付勢ロック装置に機能的に類似するものとして、支持板11とストッパ部材12とスプリング13の3つの主要な部品が必要である。しかも、その組立のために、あらかじめストッパ部材12には複数の孔12cを穿設し、支持板11には複数の連結ピンを設けることが必要であり、そしてその組立に際してはスプリング13の弾発力に抗しながら複数の連結ピンを複数の孔12cに挿通させて、この連結ピンにより支持板11を可動体1に固着させる必要がある。

したがって、本願第1発明のスプリング付勢ロック装置と引用例記載の発明の支持板11とストッパ部材12とスプリング13からなる構成単位とを比較すれば、本願第1発明のスプリング付勢ロック装置が簡単な構成と容易な組立の点で格別な効果を奏し得ることは明白である。

2  取消事由2(作用効果の看過)

審決は、本願第1発明の奏する作用効果について、「引用例に記載されたものが奏する作用効果から予測される以上のものとも認められない」(8頁17行~19行)と認定判断したが、誤りである。

本願第1発明は、「それぞれのスプリング付勢ロック装置は圧縮コイルバネとロック組立部材とからなり、前記圧縮コイルバネは前記ハブと前記ロック組立部材を連結する」ことによって、「圧縮コイルバネはロック組立部材が押し下げられていないロックされた位置にくるように、ロック組立部材をハブから離すように押圧する。」という作用を奏するとともに、スプリング付勢ロック装置は、圧縮コイルバネとロック組立部材という2つの部品のみを必要とし、それだけ構成が簡単であるとともに、組立が容易であるという効果を奏するものである。

これに対して、引用例記載の発明は、スプリング付勢ロック装置は、ストッパ部材12とスプリング13と支持板11の3つの部品を必須の構成要素としており、スプリング13は、ストッパ部材12と支持板11との間に単に圧縮されて配置されていて、ストッパ部材12を可動体1に向けて押圧するものであるから、これから本願第1発明の前記作用効果を予測することは全く不可能である。

第4被告の反論の要点

1  取消事由1(一致点「それぞれのスプリング付勢ロック装置は圧縮コイルバネとロック組立部材とからなり、前記圧縮コイルバネは前記ハブと前記ロック組立部材を連結する」の誤認)について

(1)  引用例記載の発明の支持板11、スプリング13及び可動体1の関係について

引用例記載の発明において、支持板11は、可動体1と別体とはいえ、これに一体に固着され、この一体固着状態の下で、スプリング13を支持する機能を果たすのである。したがって、支持板11は、実質上可動体の一部を形成しているとみるのが相当である。

一方、本願第1発明のハブ26は、それがどのように形成されるかについて格別の限定がなされていないから、引用例記載の発明の可動体のように、支持板を固着して形成する態様のものも包含すると解し得るのである。

したがって、引用例記載の発明の支持板11は、本願第1発明のハブの一部を形成する部材に相当する。

(2)  本願第1発明の「連結する」について

ア 本願第1発明における「連結」という用語について、明確な定義をする記載は、本願明細書中に存在しない。

これに関連する本願明細書の発明の詳細な説明の欄の記載をみると、以下のとおりである。

(ア) 「圧縮コイルバネはハブとロック組立部材を結合する第一端部と第二端部を有する。」(【0008】欄15行~16行)

(イ) 「圧縮コイルバネは第一および第二端部を有し、ハブとロック組立部材を結合する。」(【0009】欄12行~13行)

(ウ) 「それぞれのスプリング付勢ロック装置50はハブ26に組み込まれており、圧縮コイルバネ60の第一の端部によってハブ26に取り付けられている。圧縮コイルバネ60の第二の端部は、スプリング付勢ロック装置50のロック組立部材66に形成された穴62内に配置されている。」(【0014】欄3行~6行)

(エ) 「圧縮コイルバネはロック組立部材をハブと結合し、これによりスプリング付勢ロック装置を規定している。好ましくは、ロック組立部材をハブと結合するために、圧縮コイルバネの第一の端部はハブに取り付けられ、一方、圧縮コイルバネの第二の端部は、ロック組立部材に形成された穴に連結されている。」(【0026】欄2行~5行)

以上のうち、【0008】欄及び【0009】欄では、「連結」に対応する用語として「結合」が用いられているということができる。一方、【0014】欄と【0026】欄の記載を対比すると、圧縮コイルバネの第一の端部については、「ハブに取り付けられ」ている点で共通し、第二の端部については、穴内に「配置」されることと、「連結」されることとが対応している。特に、【0026】欄の、「ロック組立部材をハブと結合するために、圧縮コイルバネの第一の端部はハブに取り付けられ、一方、圧縮コイルバネの第二の端部は、ロック組立部材に形成された穴に連結されている」という記載からは、少なくとも、「連結」という用語が、「結合」のために「取り付け」られていることのみを意味するのではないことが明らかである。

このように、「結合」又は「連結」の語が統一的に用いられておらず、異なる二つの語として使用されていること自体、「連結」と「結合」とを、全く同義の語とみるべきではないことを示唆している。

以上指摘した各用語の対応関係と使用状況から、本願第1発明の「連結」とは、必ずしも「結合」、あるいは「結合」のための「取り付け」のみを意味するのではなく、「結合」、「取り付け」、「配置」等の意味を含む、総称的な用語として使用されているとみるのが相当である。

イ 引用例記載の発明において、スプリング13は、ストッパ部材12と支持板11との間に「圧縮されて配置されている」から、ストッパ部材12と支持板11(可動体1の一部)を「連結する」ものである。

ウ 本願第1発明において圧縮コイルバネが他部材を「連結」することによる技術的意義は、特許請求の範囲の記載によれば、この圧縮コイルバネが「前記ロック組立部材を押し下げられていない位置に移動するように押圧」し得る状態を保持するところにある。この技術的意義に鑑みると、引用例記載の発明のスプリング13も、ストッパ部材12と支持板11との間に「圧縮されて配置されてい」て、スプリングとしての弾発機能を果たす状態が保持されているのであるから、本願第1発明の圧縮コイルバネと同様、他部材を「連結」することになるのである。コイルバネやスプリングの端部が他部材と「結合」され、あるいは「取り付け」られているか否かは、本願第1発明及び引用例記載の発明において、技術上格別の意義を有するものではない。

また、本願明細書においては、「結合」あるいは「取り付け」という語句こそ使用されているものの、当該結合や取り付けに関して、作用効果等の具体的な言及や、構成を示す明瞭な図示がないことは、引用例と変わるところがない。しかも、「結合」や「取り付け」等の常套手段は、明細書や図面等の記載及び表現上、常に明確に反映されるというものではない。

これらのことをも考慮すれば、「結合」や「取り付け」のような常套手段の開示の有無は、発明の対比において、本質的な意味を持つとはいえない。

したがって、仮に、「連結」が「結合」や「取り付け」であるとしても、引用例に、そのような常套手段が開示されていないことをもって、本願第1発明と引用例記載の発明の有意な相違点とみるのは、著しく適切を欠くというべきである。

2  取消事由2(作用効果の看過)について

引用例記載の発明において、「スプリング付勢ロック装置」を構成する部材は、「ストッパ部材12とスプリング13」の二部材であるから、本願第1発明が二部材でロック装置を構成することに対応する作用効果は、引用例記載の発明においても変わるものではない。本願第1発明の奏する作用効果は、引用例の記載から予測される以上のものとは認められない。

第5当裁判所の判断

1  取消事由1(一致点「それぞれのスプリング付勢ロック装置は圧縮コイルバネとロック組立部材とからなり、前記圧縮コイルバネは前記ハブと前記ロック組立部材を連結する」の誤認)について

(1)  引用例記載の発明の支持板11、スプリング13及び可動体1の関係について

ア 甲第3号証によれば、引用例には、「可動体1の下方にはばね受部11aを有する支持板11が配置され、該支持板11は図示省略した複数の連結ピンによって可動体1に固着されている。これら可動体1と支持板11との間にはストッパ部材12が上下動可能に介設されており、該ストッパ部材はスプリング13によって図示上方へ付勢されている。」(9頁下から5行~10頁2行)、「ストッパ部材12がスプリング13の弾発力によって第1図に示す上方位置にある場合において、・・・可動体1を固定体6に対して回動しようとしても、ストッパ部材12の係合突部12aが係合部10の凸部10aと衝当し、可動体1を回動することはできない。」(10頁9行~16行)との記載があることが認められ、この記載によれば、引用例記載の発明において、可動体1の固定体6に対する回動を阻止するときに移動ないし変形してロック装置として作用するのはストッパ部材12とスプリング13であり、このとき支持板11は、可動体1に固着され、これと一体となってスプリング13を支持する機能を果たしていることが認められる。そうすると、引用例記載の発明において、支持板11は、可動体1の一部とみることができる。

そして、引用例記載の発明の可動体1が本願第1発明のハブに相当することは当事者間に争いがないから、引用例記載の発明の支持板11も、本願第1発明のハブの一部に相当するというべきである。

イ 原告は、引用例記載の発明の支持板11は、可動体1にスプリング付勢ロック装置を設けるために、可動体1に付加的に固着すべき部材であって、スプリング付勢ロック装置の構成要素のほかには、可動体1の一部としての存在意義は全く見当たらないと主張する。

しかし、本願第1発明のハブは、圧縮コイルバネを支持する機能があり、スプリング付勢ロック装置は、ハブを含まないのである。一方、上記支持板11は、可動体1(ハブ)と一体となって、スプリング(圧縮コイルバネ)を支持する機能を果たすのであるから、本願第1発明のハブに相当するものというべきであって、スプリング付勢ロック装置ではないことは明らかである。

また、原告は、本願第1発明のハブには、スプリング付勢ロック装置の構成要素としての支持板を固着して形成する態様のものは包含されないと主張する。

しかし、引用例記載の発明の支持板11が、スプリング付勢ロック装置ではないことは、前示のとおりである。そして、本願第1発明の特許請求の範囲には、ハブの構造を、支持板を固着したものを含まないように限定する記載はない。原告の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかないものであって、失当である。

(2)  本願第1発明の「連結」について

ア 「連結」とは、普通は、「連ね結ぶこと」ないし「結び合わせること」という意味である。しかし、本願第1発明の特許請求の範囲の記載において、「連結」が二つのものを「取り付ける」という意味であることまでは、一義的に明確ということはできない(「結び合わせる」という語は「物事を関連づける」という意味に使われることもあり、「結ぶ」という語は「都心と空港を結ぶ道路」というように離れている地点をつないで連絡できるようにするという意味に使われることもある。)ので、本願明細書の発明の詳細な説明の欄を参酌することとする。

甲第2号証(本願明細書)によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、「連結」の用語について明確な定義もなく、「連結」の技術的意義、作用効果も明示されていないこと、実施例に関するものとして、「圧縮コイルバネはハブとロック組立部材を結合する第一端部と第二端部を有する。」(【0008】欄15行~16行)、「圧縮コイルバネは第一および第二端部を有し、ハブとロック組立部材を結合する。」(【0009】欄12行~13行)、「それぞれのスプリング付勢ロック装置50はハブ26に組み込まれており、圧縮コイルバネ60の第一の端部によってハブ26に取り付けられている。圧縮コイルバネ60の第二の端部は、スプリング付勢ロック装置50のロック組立部材66に形成された穴62内に配置されている。」(【0014】欄3行~6行)、「圧縮コイルバネはロック組立部材をハブと結合し、これによりスプリング付勢ロック装置を規定している。好ましくは、ロック組立部材をハブと結合するために、圧縮コイルバネの第一の端部はハブに取り付けられ、一方、圧縮コイルバネの第二の端部は、ロック組立部材に形成された穴に連結されている。」(【0026】欄2行~5行)との記載があることが認められる。これらの記載のうち、【0008】欄と【0009】欄の記載では、本願第1発明の「連結」に対応する用語として「結合」が用いられていることは明らかである。一方、【0014】欄と【0026】欄の各記載では、圧縮コイルバネの、第一の端部は、「ハブに取り付け」られていることにおいて同じであり、第二の端部は、穴内に「配置」されることと、穴に「連結」されることとが対応している。そうすると、本願明細書では、「連結」とは、「取り付け」られている場合に限らず、穴内に「配置」されている場合も含まれる用語として使用されているものと認められる。とりわけ、上記【0026】欄の記載は、「ロック組立部材をハブと『結合』するために、・・・第一の端部はハブに『取り付け』られ、・・・第二の端部は、・・・穴に『連結』されている」というものであるから、「連結」が「取り付け」られていることのみを意味するものではないことは明らかというべきである。

以上の事実によれば、本願第1発明において、「連結」とは、取り付けられ、物理的に固着している場合に限らず、接触した状態で配置されている場合も含まれるものと認められる。

イ 甲第3号証によれば、引用例記載の発明のスプリング13は、ストッパ部材12と支持板11との間に圧縮され、両者と接触した状態で配置されていることが認められる。したがって、このスプリング13は、ストッパ部材12と支持板11(可動体の一部)を連結するものということができる。

ウ 原告は、「連結する」という用語がその本来の字義にしたがって「結び合わせる」という意味で使用されていることは明白であるから、実施例について前記のような記載があるからといって、本願第1発明における「連結する」という用語を、あえて位置関係のみを示す意味に解釈すべきではないと主張する。 しかし、「連結」という用語が、必ず「取り付け」られていることを意味するというものではなく、本願第1発明の特許請求の範囲の記載が一義的に明白ということはできない。したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の欄を参酌し、これによって、「連結」の意味を確定することが必要であることは当然である。原告の主張は、採用することができない。

2  取消事由2(作用効果の看過)について

本願第1考案の構成を採用した場合に、原告主張の作用効果が得られることは自明である。したがって、作用効果についての原告の主張は、理由がない。

3  以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

第6よって、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理の申立てのための付加期間の付与について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 山田知司 裁判官 阿部正幸)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例